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東京地方裁判所 平成12年(ソ)29号 決定 2000年8月03日

抗告人

株式会社共同債権買取機構

右代表者代表取締役

右代理人弁護士

古賀政治

杉原麗

鶴巻暁

大塚幸太郎

相手方

Y不動産株式会社

右代表者代表取締役

右代理人弁護士

近藤節男

園高明

主文

一  原決定を取り消す。

二  相手方の不動産競売手続停止の申立てを却下する。

三  申立費用は原審及び当審とも相手方の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

別紙即時抗告状≪省略≫及び即時抗告理由書≪省略≫各記載のとおり。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  相手方の代表者である申立外B(以下「B」という)らは、平成元年一〇月から平成五年八月までの間に、申立外株式会社日本興業銀行(以下「興銀」という)から合計三六億円余の融資(Bについて合計五億九四〇〇万円、申立外Cについて三億九四〇〇万円、申立外株式会社ファイナンシャルサービスコープについて二七億円)を受け、相手方がこれを連帯保証するとともに、その所有する別紙物件目録≪省略≫記載の土地建物(以下「本件不動産」という)に極度額三二億円の根抵当権を設定したが、Bらは、平成五年ころから、右融資にかかる債務(以下「本件債務」という)の弁済を怠るようになっていた。

(二)  抗告人は、興銀から、平成六年九月二九日、Bらに対する右債権を譲り受けるとともに、右債権について興銀を債権管理の取扱銀行とした。

(三)  本件債務の弁済状況をみると、右債権譲渡前においては、元金のうち、Bが融資を受けた分について九〇〇〇万円程度、Cが融資を受けた分について一四〇〇万円程度、それぞれ弁済されているが、右債権譲渡後においては、Bが抗告人に対して、平成一二年三月八日、一〇〇万円を弁済しているだけである。

(四)  Bは、平成一〇年四月ころから、興銀に対して、本件不動産を第三者に任意売却するようたびたび話を持ちかけ、同年九月一一日、申立外東京ライオンズサービス株式会社が本件不動産を代金一二億〇三〇〇万円で買い受ける旨の同社作成の買付証明書を、同年一〇月一九日、申立外株式会社アーバンリアルエステートが本件不動産を代金九億円で買い受ける旨の同社作成の買付証明書を、それぞれ興銀に対して提出しているが、興銀は、これに応じなかった。

(五)  抗告人は、同年一二月一八日、東京地方裁判所に対し、前記根抵当権に基づいて本件不動産について競売を申立て、同裁判所(以下「本件執行裁判所」という)は、同年一二月二四日、競売開始決定により、本件不動産を差し押さえた。なお、右差押当時、Bらが抗告人に対して負担する本件債務の残高は三五億円余であった。

(六)  本件執行裁判所は、平成一二年二月七日、本件不動産の最低売却価格を一六億四六九九万円とする旨の決定をし、同年四月六日、入札期間を同年六月六日から同年六月一三日までとする旨の決定をした。

(七)  相手方は東京簡易裁判所に対し、同年三月二七日、抗告人を相手方として、本件債務三五億円余の弁済をしばらくの間猶予することを求める旨の調停(以下「本件調停」という)を申し立てた。

(八)  相手方は右調停裁判所に対し、同年五月一六日、本件不動産についての不動産競売手続の停止を申し立て、同年五月二三日、申立外株式会社アーバンコーポレーションが本件不動産を代金一四億五〇〇〇万円で買い受ける旨の同社作成の買付証明書を提出し、さらに、同年五月二九日、右会社が本件不動産を代金一六億五〇〇〇万円で買い受ける旨の同社作成の買付証明書を提出し、同裁判所は、同年六月二日、本件調停終了まで不動産競売手続を停止する旨の決定するとともに、本件調停の既指定の期日を取り消し、期日を追って指定とした。

(九)  抗告人は、本件調停の期日(第一回期日は同年四月二六日、第二回期日は同年五月二六日)において、本件調停に応ずる意思のないことを表明している。

2  右認定事実によれば、①相手方は、抗告人に対して、これまで、ほとんど本件債務の弁済ができていないにもかかわらず、本件不動産の任意売却について交渉をしていただけで、任意売却による弁済額を超える部分を含めた本件債務全体の弁済計画案は全く提示していないこと、②本件調停申立ては、本件不動産の入札期間決定の直前になされたもので、かつ、本件不動産競売手続停止の申立ても、右入札期間の直前になされたもので、抗告人において、近々相当額の債権回収が図りうる状況になっていたにもかかわらず、相手方は、本件債務の弁済を当面猶予する旨の漠然とした調停案を提示するのみで、何ら弁済計画について具体的な調停案を示していないこと、③また、相手方側が提示する任意売却による場合の売却予定額も、交渉していた当初から、いずれの案についても、前記最低売却価格をかなり下回ったもので、合理的な提示額とは言い難いこと、④しかも、相手方が最低売却価格決定後に提示した額も、最初は、右最低売却価格を相当下回るもので、その後に提示した額も、右最低売却価格の額をわずかに上回る程度のものに過ぎないことが認められ、右各事実に照らすと、相手方には、誠実な債務者として調停成立に向けた真摯な態度があるとは認められない。したがって、抗告人が、本件調停によらず、右執行手続により債権の回収を図ろうとする態度をとっているのも合理的というべきである。そうすると、相手方の債務整理にかかる事件を調停手続により解決することが相当であるとは認めがたい。

3  したがって、本件執行停止の申立てはこれを却下するのが相当であり、右申立てを認めた原決定は不当として取り消されるべきである。

三  よって、民事訴訟法三三一条、三〇五条、六一条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 深見玲子 裁判官 田邊浩典 飯畑勝之)

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